飛浩隆の「自生の夢」を読了

[記事公開日]2017/11/10[最終更新日]2021/05/31

飛浩隆「自生の夢」読了

越石です。

そういうわけで、2016年11月に発売された飛浩隆著の全7編の新作短編小説「自生の夢」を読了しました。発売されてから随分経ちますが、単純に発売されていたのを知りませんでした・・・

 

以下、簡単ですがレビューです。
※一部ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

海の指

灰洋という灰色の海に飲み込まれた世界。かつては日本であっただろう泡州という小さな四角い島に暮らす人々。そして数年に一度必ず起こる「海の指」という災害の中生きる人々の話。結局灰洋や海の指の謎は謎のままです。ファンタジーなのでしょうが少しすっきりしないお話でした。ただ、相変わらず情景の描写は繊細で、複雑怪奇な世界観であるにも関わらず、くっきりとその情景や色が頭に浮かびます。

 

星窓

夏休みに星窓という空間を切り取った額縁を買った学生さんのお話で、その星窓には何かしらの超絶的な存在がたまたま切り取られていたようで・・・よく意味が分かりませんでした。面白くなりそうな予感がし始めたところで謎は謎のまま終わり消化不良です。(理解出来ていないだけ?)

 

銀の匙

これはライフログ書記ツール「Cassy」のお話。この後の話にも続きます。
この話に限らずこれまでの話は全て近未来もしくは遥か未来の事で、現代の技術の進化や退化も自ずと書かれており、ここで興味深かったのはAR(拡張現実)が未来では廃れているという話。このブログを書いている2017年10月時点ではiPhone8(iOS11)が発売されたばかりで、同時にARアプリが一気にリリースされた時期であります。まさにARがこれから盛り上がろうとしている時期でしょうか。しかし近未来であろう「銀の匙」の世界では、すでにARは衰退しているとの事。理由は「ユーザーが自分でフィルタを設定する」ことで、街が魅力を失ってしまうかららしい。確かにARの利用方法として真っ先に広告が考えられますが、すでにネット上の広告にもフィルタを設定する事が可能であり、広告を見たくないユーザーがいることを考えると、当然フィルタ機能は必要でしょう。その時、街には自分好みに制限された情報しか出ないようになり、逆に魅力を失うというのです。確かにと思う反面、AIの発達なんかでそこまで単純ではないだろうと思いますが、こういったSF小説ならではの考察は面白いです。(一応広告業界に曲がりなりにも身を置いてますし・・・)

曠野にて

先の「銀の匙」の続き。生まれた瞬間からライフログ書記ツール「Cassy」を与えられた開発者の娘アリスのお話。これ面白かった。「Cassy」を使う事で言葉を扱う事に関して特殊な力を発揮する子供達の(ここではアリスと克哉)の言葉とARを使ったバトル。情景は浮かぶが正直細部の意味はよく分からない。ただ面白い。そして「銀の匙」でARが衰退したとありましたが、それに併せて検索エンジン、すなわちGoogle(小説ではGodel)も衰退、もしくは公共のサービスに解放されるという未来予測がされています。曲がりなりにもSEO担当者として仕事をしている身としましては、非常に興味深い話であります。そしてあまり詳しく書くとネタバレとかではなく、私の無能さが露呈し、今後の仕事に影響が出そうなのでやめときますが、作者はネット広告の世界や今後の事をかなり分析されており、その道でも超一流なんじゃないでしょうか。もう一度読み返して勉強しないとです。

自生の夢

表題作です。「銀の匙」「曠野にて」に続き、Cassyやアリスのその後、そしてGodel(Google)が巻き起こす大事件についてのお話です。

これがやばいくらい面白い。

少し長めの話なのですが、やばいくらい面白い。

ここまでも適当にレビューしてきましたが、話が複雑なので私なんかには簡単にレビューできるはずもなく、ぜひ読んで頂きたいです。

中でもまたGoogle関連の話があり、というかほとんどがGoogleの未来についての内容となっており、SEO担当としては非常に興味深い内容です。SEOに携わって10年以上になりますが、作者のほうがSEOーいや、検索の本質とは何かを分かっていそうです。

一応お話の一部ですが、この小説の世界では、Google(ここではGodel)が世界中の紙の書籍、文章をデータ化することで、ネットの情報、画像、音楽、そしてCassy(世界中の人々の自動ライフログツール)と紐付き、Googleの中にとんでもない知見が発生します。(実際Googleは現実の世界でも書籍をデータ化し、ネットに公開しても良いという判決を受けているようです。)それによって同時に言葉を変容(データを破壊)してしまう人類にとって危険な知性も発生してしまいます。それに対抗するため、同じくGoogleのデータを利用して、過去に言葉だけで人を殺害したという「強い言葉」を持った「間宮潤堂」という故人を仮想空間(検索エンジン内、もしくは検索行為そのもの)に作り出します。AIとも仮想現実とも違う言葉(データ)が作り出す世界です。このくだりがとにかく面白い。SEO担当としてニヤリとする内容がたくさんあります。
ちなみにCassyは、検索クエリに対して、最適な検索結果を導き出す機能のひとつで、検索エンジンのクローラー(ロボット)やアルゴリズムを擬人化したような形で小説に登場します。すでにGoogleの中にはこのようなAIが存在するんじゃないかなんて思えてきます。

そういうわけで、やっぱり上手くあらすじなんて書けませんが、この狂気と残酷に満ちた世界は素晴らしいの一言です。この残酷で美しい描写こそ飛浩隆です。しかし、まさかこんなところでGoogleの未来の話に出会うとは。正直「海の指」「星窓」は微妙だと思ったのですが、これは本当におすすめです。あと至る所で伊藤計劃やその小説について意識されているようですが、私レベルでは気づきませんでした。とは言え気づかなくてもやばいくらい面白いです。

野生の詩藻

アリスが亡くなってから数年後、アリスの兄とアリスの友人の克哉が、アリスが残し、その後暴走した「ビースト」という詩で作られた機械を捉える話。うーん、よく分からん。描写が難解でイメージは湧くが、意味が分からない。難解なのにイメージが湧くのは「テオヤンセンのストラントビースト」に似ているという一節から「ビースト」が想像出来るため。そういえば「自生の夢」で、そもそも文字の力(イマジカ)でアリスがフリーズ(そして発狂→結果的に死亡)したことが理解出来ていない事に気づく。デバイスがどのように個人と繋がっているのか理解出来ていないのかも。

はるかな響き

言語や意識とは、より高次の知的生命体から言語や意識を持ってしまったが故に聴こえなくなってしまったもっと深層の意識を知るために与えらたというお話。なんて言いながら合ってるかどうかわかりません。まぁその言語を猿に与えられるシーンとして、あの「2001年宇宙の旅に」出てくる「モノリス」も登場します。なかなか難しいのですが、すごく面白い。本書では個人的に「自生の夢」に次ぐ面白さです。おススメです。

最後に

そんなわけで、本書は短編集で書かれた時期も違うようですが、7編中4編が一つのテーマで書かれており、中編小説としても楽しめます。そして何よりその4編の中で表題作である「自生の夢」が最高に面白い。言語SFです。
なんだか「ラギッドガール」をもう一度読みたくなってきました。そしてラギッドガールの続編を待ちます。

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