【レビュー】小林泰三「目を擦る女」を読了

[記事公開日]2018/06/24[最終更新日]2019/07/24

越石です。

そんなわけで小林泰三の短編集「目を擦る女」を読了しました。

あらためて私、無類のハードSF好きなんですけど、映画では「マトリックス」や「13F」、小説では鈴木光司の「りんぐ」「らせん」に続く「ループ」で仮想空間ものにはまりました。そんな仮想空間ものの小説では飛浩隆の「ラギッドガール」が飛び抜けて傑作です。

で、この小林泰三の「目を擦る女」ですが、多くの短編が夢や仮想空間に関するもので、そっち系の話が好きな人には堪らないんじゃないでしょうか。私は堪りませんでした。おススメです。

それでは以下詳細レビューです。
ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

目を擦る女

ここはわたしの夢の中だと言う隣に住む女。そんなわけがないと言う主人公。結局オチや本当のところはよく分からなかったのですが、夢の中ならもっと自由自在にすればいいのにと思った。わたしの場合、夢の中で夢だと気付いた時はいつも自由にします。ここでは言えないあんな事やこんな事をしちゃいます。まぁ大抵は夢の中だとわかっていても何も出来ないんですけどね。ストーリーに飲み込まれないように抵抗した挙句、すぐ目が覚めちゃいます。小さい頃はよく明晰夢を見たものですが、最近は見ないですね・・・

 

超限探偵Σ

天才的な推理力を持つ探偵Σのお話。二部構成になっており、一部、二部共に探偵物としてはとんでもないオチになっています。あくまで探偵物としてはですが。一部のオチで「はぁ?」となって、二部のオチで「まさかまたか?」と思わせて「えぇ・・・」となります。

 

脳喰い

面白い。タイトルからしてグロいのですが、まさかの脳が喰われます。近未来、宇宙に活動範囲を広げた人類が他星系の文明とファーストコンタクトする話なのですが、その高度な知性体と思われる者に脳が喰われます。これ面白い。もしかすると私も脳を喰われているかもしれません。いや、だとしたらこっちの世界は選ばないか。

空からの風が止む時

感想を書こうと思うとネタバレになっちゃいます。未読の方はご注意ください。
で、こちらの短編ですが、「風が上から吹いて世界の縁まで流れる」「世界の重力がどんどん減って次第に逆転しそう」など妙な設定の世界で、尚且つ「十刹那」や「何牟呼栗多」など時間の単位がおかしいことにすぐ気付きます。刹那は一瞬と分かりますが、牟呼栗多はよく分かりません。調べてみるとどうやら2880秒(48分)ということで、大体1時間くらいでしょうか。で、この世界では1年が牟呼栗多のようで、かなり速い時間の流れの中で生きているようです。

で、ネタバレですが、どうやら宇宙飛行船か何かの推進装置の中に発生した文明のようで、まさに推進装置がエネルギーを生み出す一瞬の世界の話です。これ、よく妄想します。この世界は大きな生物の一つの細胞の中なんじゃないかとか。宇宙とは脳細胞なんじゃないかとか。そんな妄想のような話です。

刻印

宇宙から来たエイリアン?ファーストコンタクトものか?と思わせつつ、タイムマシンもので、しかも人類の起源や、さらには吸血鬼の由来も判明しました(笑)吸血鬼はなぜ十字架を嫌う理由も(笑)

未公開実験

ターイムマスィーン(ポーズ)と仮想空間の話です。タイムマシンではなくターイムマスィーン(ポーズ)の話です。この世は仮想空間(シミュレーションの世界)であると言う前提なら、ターイムマスィーン(ポーズ)は簡単に作れるという話です。まぁ面白いんですけど、ターイムマスィーン(ポーズ)を開発するほどの頭を持つ研究者の発言や知識や理解度が微妙で説得力という意味でちょっと残念です。あえて狙っているのかもしれませんが。最後のシミュレーションの外から見た場合のターイムマスィーン(ポーズ)の動きはなんとなく面白いのですが・・・

予め決定されている明日

これも仮想空間の話。仮想空間は算盤(ソロバン)で計算されているというもの。面白い。後書きにもありましたが、グレッグイーガンの「順列都市」の塵理論に通ずるものがあります。この世界は全て計算された(出来る)世界で、つまり計算結果は計算しようがしまいが問題が出された時点で答えは決まっているのです。算盤人のケムロが見る仮想空間の世界は算盤とメモ帳だけのようで、映画マトリックスの登場人物がただ文字列の並んだディスプレイを見て世界を見ていたのを彷彿とさせます。面白い。

最後に

小林泰三の目を擦る女

鞄の中にずっと入れてたのでボロボロ

こちらの小説ですが、休日にひとりの時間が出来たときに喫茶店で一編ずつ読み進めていましたので、読み終わるのにけっこう時間かかっちゃいました。長編の場合、あまり間が空いてしまうと私の記憶力では内容を忘れてしまいますので、短編集ならではの読み方です。
そんなわけで、小林泰三にしてはグロは少なく非常に読みやすく面白かったです。SF好き、仮想空間もの好きには超おススメです。

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